〜蒼空〜

 

 

 目を開ければ、空が近い。昨日まではあんなに遠くて。手を伸ばしても届かなかったのに。今日の空はやけに近くて、手を伸ばせば触れられそうな気がする。何でだろうね。

 そうだね、きっと空が青くて、蒼いからさ。昨日まで曇っていたのが嘘みたいに。雲ひとつ見えない空って言うのは、こんな感じなんだろうね。こんなに空が青くて蒼いと、太陽の光だって見えやしないんだ。どうだい、不思議だろう? 太陽がなくたってきっと空は蒼いままなんだろうね。

 きっとそうだよ。蒼い空って言うのは、見ているだけで心まで蒼くするんだ。そのうち身体まで蒼くなって、いつの間にか僕も空に溶けるんだよ。そうなったら僕、そりゃあもう蒼くなるぜ? 君だって蒼くなる。

 そうかもね。そうなったら、いまに世界が蒼くなるぜ。全部が蒼に溶けて、青くなるんだね。そうなったら、おい。僕たち、自由だぜ?羽なんかなくたって、飛べるに違いないよ。

 そうとも、空どころのさわぎじゃないさ。何処にだっていけるんだ。それっておい、どんなに幸せだろうね。考えただけで嬉しくなってきたよ。あぁ、ほら。君の手をごらんよ。指先が青くなっているじゃないか。僕の手も青くなっている。凄いなぁ、身体が軽いよ。今に何処へだって飛んでいけそうだ。そら、おいで。一緒に世界の端までいこうじゃないか。

 それはいいね、そうしよう。あぁ、世界が蒼くなっていくよ。どっちが上で下で右で左なのか判らなくなってきたよ。少しだけ怖くてちょっぴり恐いなぁ。なぁ、自由なんてものは曖昧で不確かなんだね。何処までも飛んでいったら、僕たちは何処に辿り付くんだい?

 何処にも着かないさ。終りなんてないんだ。僕たちは自由になるんだ。そして永遠になるんだ。永遠の自由を手に入れるのさ。それって、どんなにか素敵だろう。

 そうか、それはいい。永遠、永遠の自由か。それはいいね。それはいいよ。そんなことなら、早く飛んでいこう。青くて蒼い世界の端を目指して。

 そうだね、いこう。さぁ、僕の手を握って。そう、そうだよ。君、すっかり青くなったね。僕はどうだい? うん、青い? そうか、それは良かったよ。それじゃあ、いこう。

 

 

 

 ─────────そうして、僕らは。手を伸ばして。ほら、空に届いたよ。空に─────────