ガタン、ゴトンと。緩やかに、穏やかに。
眠りを誘うようなリズムで。ガタン、ゴトン。
猥雑とした都心部を抜け、電車から汽車に乗り換えて、三時間。
丘を越え、森を抜け、草原の真ん中を走り。
着いた先は、空と海が重なって見える場所。
蒼と青が、限りなく近づいて、その境界線がぼやけて分からなくなる程に。
だだっ広い草原の真ん中に、この無人駅はある。
草の匂いに包まれ、重なり広がる群青を眺めながら、僕は駅のホームを降りて、歩き出す。
向かう先は、この草原を抜けた所にある小さな町。
田舎、と呼ばれるような古い町。
かつて、僕が住んでいた町。
「……ふぅ。この景色も、懐かしいな」
小さく呟き、足を踏み出した時。ポツリ、と。小さな水滴が首筋に当たる。
「ん? あれ、雨かな?」
上を見上げるが、空は依然として蒼く澄み渡っている。
そんな事を考えている間にも雨足は強くなり、遂には土砂降りと化してしまった。
「うわ、うわわ」
小さく悲鳴を上げて、僕は踏み出した足を戻す。
「んー、天気雨かぁ。珍しい・・・事でもないのか。こっちでは」
都心では、天気雨なんてものに出くわした事がないから忘れていたけれど。
こっちの方ではよくある現象なのだった。
「それにしても、ここまで強い天気雨も珍しいなぁ」
どうやら、当分は止みそうにない。
仕方がないので、駅のベンチに座って、未だ泣き続けている空を見上げる。
「天気雨・・・か」
どうして忘れていたのだろう。
僕にとって。
この町に住んでいた頃の僕にとって。
ソレは、とても大切なモノでは無かったのだろうか。
「ここから、見えるかな」
僕の呟きに応えるように、水と光が交差して。空を、七色の橋が駆け抜ける。
「あははっ、見えた」
小さく笑い、僕は立ち上がる。
「追いかけなきゃ」
外では、未だに雨が降り続いている。
この様子なら、あの虹は当分消えないだろう。
それなら、あの虹を追いかけるのは今しかない。
雨が止んでしまったら、きっとすぐにあの虹は消えてしまうだろうから。
「虹の端を探しに行こう」
持っていた荷物をベンチの上に放り投げて。
僕は、雨の中に飛び出していく。
まるで、子供に戻ったかのように、心が弾んでいる。
あの頃、僕はあの虹に恋をしていたんだ。
それは、懐かしい記憶。
あの頃の僕は、どうしようもなく幼くて。
だけど、あの無邪気さは、きっと忘れてはいけない物だったんだ。
だから、僕は。今から、それを取り戻しに行く。
遅くは、無いだろうか。
今からでも、間に合うのだろうか。
そんな不安に駆られながら。
どうしようもなく愚かな僕は。
それでも、探すんだ。
あの虹の端を。