ポツ、ポツと。優しげに、儚げに。

歌を歌うように、ポツ、ポツ。

 

降り出した雨は、瞬く間に土砂降りになる。

窓から覗いてみれば、空は青く澄んだまま。

 

     「天気雨だ!」

 

私は叫び、傘も差さずに外へ飛び出す。

傘なんて差していたら、早く走れない。

空を見上げれば、大きな虹の橋がかかっている。

早くしなければ。

この雨が止めば、きっとあの虹は消えてしまう。

その前に、見つけなければ。

あの虹の端を、探しに行かなければ。

 

この町に昔から伝わるおまじない。

天気雨の日に虹が出来たら、その虹の端を探す。

そして、雨が上がった瞬間。

その虹の端の中にいれば、願い事が叶うんだそうだ。

私がその話を初めて聞いたのは、小学生の時。

その時から、私はずっと虹の端を探している。

昔は、幼馴染の男の子と一緒に探していた。

だけど、その子は親の転勤と共にこの町を去ってしまった。

 

     「会いたいな」

 

だから、その日から。

私はずっと一人で虹の端を探している。

もしも見つける事が出来たなら。

私は七色のスポットライトを浴びて。

願い事をするのだろう。

 

     「もう一度、会えますように」

 

十年間ずっと、願い続けてきて。

でも、一度も虹の端を見付ける事は出来なくて。

だけど、今日は何だかいつもと違う。

確信めいた予感。

予感に基づいた衝動。

得体の知れないパワーが私を突き動かす。

 

     「もしかしたら、今日は」

 

見つかる。

見つかる。

きっと、見つかる。

不思議な予感。

予感は、そして確信へ。

 

     「あっ……た」

 

草原を駆け抜けた私の眼前に、それは凛と立っている。

 

     「あった、あった!!」

 

空へと続く虹の橋、その始まり。

虹の端が、凛と流れるように。

そんな事を思うと同時、雨の勢いが弱まっていく。

 

     「やっ、消えちゃう!!」

 

私は最後の一歩を踏み出し、虹の端に、入る。

 

     「う……わぁ……」

 

目の前に広がる景色が、淡い七色に揺らいでいる。

凄く綺麗な、景色。

私は、願い事を口にする。

 

     「あの子にもう一度、会えますように」

 

と、同時。

雨が、止んだ。

キラキラと光る草原の中。

彼は、立っていた。

しばらく立ち止まっていたけれど。

ゆっくりと歩いてきて、私の前に立つ。

十年前よりもずっと大きくなって。

でも、優しそうな顔は変わらなくて。

だから、私は笑顔で言った。

 

     「おかえりっ!」