シト、シトと。柔らかく、暖かく。

包み込むように、シト、シト。

 

雨が、弱まっていく。

虹が、消えてしまう。

急がなければ。

 

そうして、走って。

走って、走って。

どれだけ走ったのだろう。

ふと、気がつけば。

遠くに霞む人影。

その人影は、七色の光に沈んで。

 

     「虹の……端」

 

僕は、ゆっくりと近づいていく。

その人影……彼女もこちらに気付いたのか。

顔を上げたその姿は。

 

     「やっと……会えた」

 

僕は呟き、立ち止まる。

と、同時。

雨が、止んだ。

キラキラと光る草原の中。

七色の粒子が風に舞う中で。

彼女は、微笑んでいる。

十年前と同じ笑顔。

僕は、一歩一歩近づいていく。

そして、彼女の前へ。

僕が微笑めば。

彼女は満面の笑みで。

 

     「おかえりっ!」

 

その笑顔が。

雨に濡れた髪や睫毛や。

こちらを見つめる濡れたような瞳が。

とても、綺麗で。

僕は、その瞳を見て言う。

 

     「うん……ただいまっ!」

 

僕の答えに、彼女は頷いて言う。

 

     「ね。まだ、虹の端は消えてないよ」

 

その言葉に、僕も頷き。

彼女を、抱き締める。

十年ぶりの再会。

僕と彼女は、小学生の時からずっと。

ずっと探していた虹の端の中にいる。

 

     「お願い、叶ったよ」

 

僕の腕の中で、彼女が小さく囁く。

 

     「どんな?」

 

僕が聞けば。

彼女は顔を上げて、満面の笑みで。

 

     「君に、もう一度会えますように、って」

 

そういってはにかむ様に俯き。

もう一度、顔を上げる。

淡い赤に色づいた頬。

こちらを見つめる瞳。

濡れたように潤む唇。

その一つ一つが愛おしい。

十年越しの初恋。

 

     「僕も、今一つ願い事をしたよ」

 

ようやく見つけた虹の端の中で、僕は言う。

 

     「へぇ。どんな?」

 

あの頃と同じ無邪気な顔で彼女が問えば。

僕は、あの頃のように悪戯っぽく笑い。

 

     「君と、ずっと一緒にいられますようにって」

 

言って、彼女を強く抱き締める。

腕の中で、彼女はくすぐったそうに笑い。

囁くような声で。

 

     「それじゃあ、きっとそのお願いも叶うよ」

 

そう言って、不意に。

背伸びをした彼女の唇が。

僕の唇と、重なる。

 

もう、二度と離さない。

ようやく見つけた虹の端の中。

僕は世界で一番大切な女の子を抱き締める。

 

虹が、散った。

僕達は、ここにいた。